頭部
大きな孔は真下に移動していた
背骨が地面に水平な四つ足のイヌやウマ、それとは対極的に背骨が直立した二足歩行のヒト。長い手も着いて結局は4本で歩くチンパンジーは、歩くときの背骨が水平でもなく垂直でもなく、斜めになっています。どの動物も背骨の上に頭が乗っています。消しゴムを頭に見立て、楊枝を頚にして、頭にさしてみてください。垂直の頚は真下に、水平の背骨でも頚はやや上向きの斜めにささります。斜めの背骨の上の頚は、イヌなどよりは前側に位置する下側にささります。頭の骨の中には脳が、背骨の中には脊髄が入っていて、脳と脊髄はつながっているのでした。ということは、頭の骨に脳のいちばん下の脊髄につながる延髄が通る孔が必要です。その孔は後頭骨に開いていて、「大(後頭)孔]といいます。この孔は頚の向きに関連して、位置が異なっています。つまり、頚と見立てて楊枝がささった位置に開いているのです。
ヒトの場合は、ほかの四つ足動物と異なり、頭蓋骨の真下に向かって開いています。そのため、頚の真上に脳頭蓋が位置でき、入れ物も中身の脳も拡大可能となって、大きな頭と脳を獲得することができました。同時に前に突出していた鼻と上顎、そして下顎は後退して、平面顔をも獲得できました。四つ足のイヌは小さな脳頭蓋と前方への大きな顔面頭蓋となっています。オラウータンの頭蓋骨は、ヒトと比べると脳頭蓋の占める割合が小さいようです。もう1つ、側頭骨の側方への張り出しも異なっています。これは、側頭筋の発達の違いにより、肉食のイヌは咀喘筋である側
頭註が発達して、側頭骨の側方への発達を阻害しているのです。オラウータンは大きすぎる下顎骨を保持するために、側頭筋が発達して、脳頭蓋の割合が減少しています。
大脳では、手や顔に関連する領域が広い
ヒトは直立2足歩行となって、背骨の上に頭が乗り、脳の拡大が可能になったことと、歩行から開放された前足が上肢となり、道具を作成できる手を獲得したことが、文明を生み出す要因だといわれます。大脳皮質にそれぞれの働きをもった場所があり、中心溝の前で前頭葉の後部が、筋肉に指令を送る違動野である、と前に述べました。その中心溝の後ろは頭頂葉といわれ、その頭頂葉の前側に体の表面をおおっている皮膚で受けた情報、熱い、冷たい、痛い、触れたという感覚、つまり温覚、冷覚、痛覚、触覚を感知する場所である体性感党野があります。中心溝をはさんで手足や体中の筋肉運動に関する中枢と、手足や体中の皮膚感覚の情報を受け取る体性感覚野が向かい合っているわけです。そのどちらも、頭の中央上部から足などの下肢、体幹、手などの上肢、頭や顔や頚に関係する場となっています。そのうえ、右脳が左側半分の、右脳が左側半分の皮膚や筋肉を受けもっています。
さて、「にぎる(握る)」「つかむ(掴む)」「つまむ(摘む)」ことのできる手ですが、この細かい動きを行うにはさまざまな筋肉が必要です。また、それらの筋肉の動きもうまく制御されなければなりません。手の皮膚の感覚も、眼を閉じて指先でいろいろ触ってみますと、“第3の眼"といわれるくらい敏感ですよね。働きのよい部位に関する脳の場所も多くを占めているようで、ペンフィールドという人たちが描いた図には、手に関して広い領域が示されています。その図では顔も大きく描かれています。人の顔は表情が・豊かです。皮膚についていて、皮膚を動かす皮筋が発達しており、
その表情筋を動かしている運動野内の場所も広く占められているからです。
垂れ下がっている内分泌腺が成長ホルモンを出す
口を開けてのぞいてみると、咽への入り口に゛のどちんこ”かぶら下がっています。そのぶら下がっている手前は、上あごのざらざら面で、口の中の上蓋になり口蓋といいます。その口蓋の奥の部分が垂れ下がっているので、のどちんこは口蓋垂と呼ばれます。右下腹が痛いと盲腸炎だなどといいます。言腸は小腸の最後である回腸に続く大腸の始まりで、下方に出っぱっている部分ですが、実際の炎症は、その盲腸から回虫のように垂れ下がっている虫垂という器官なので、正式な病名は虫垂炎です。いずれも垂れている様から、「垂」が名前に入っています。
大脳は左右の半球からできていますが、その左右にはさまれて体温調節など温・冷感の中枢や性中枢(性欲)、食欲中枢・睡眠中枢などの働きをもっている開脳かあります。その間脳から垂れ下がっている小指の頭ほどの器官を、「下垂体」といいます。小さな器官ですが、とても重要な働きをもっています。下垂体は内分泌腺で、ホルモンを分泌します。そのホルモンは成長ホルモンといい、成長期に骨に働きかけ、その伸びを促進します。もちろん骨に対してだけではなく、タンパク質を合成する働きも促進させ。心臓も、筋肉も、肝臓も腎臓なども大きくします。つまり、身体
全体の成長を促す働きをもっているのです。
この成長ホルモンが成長期に過剰に分泌されると、骨の発育が盛んになりすぎ、身長や身体全体が大きくなりすぎるほ人症になります。成人で過剰分泌した場合は、手足、鼻先、下顎、耳たぶ、舌、唇など、身体の先のほうだけが肥大して末端肥大症になります。逆に、子ども時代にこのホルモンの分泌が不足すると、骨が伸びず小さなままになってしまいます。
左右の視神経がクロスしている
眼に入った光はレンズ(水晶体)を通って屈折し、眼球後部の網膜(スクリーンの役目)に像を結びます。しかし、その網膜で見ているのではないのです。網膜に映った情報が脳に運ばれ、脳に記憶されているデータと照合されて、紅葉の山々なのか、新雪におおわれた山かなど、その状況が把握されるのです。耳で聴いた音も、鼻でかいだ香りも、舌で味わった甘味も、脳に情報が運ばれて、その情報が生きていくために利用されるのです。各器官で得た情報を脳に運ぶ経路が、末梢神経です。眼の網膜から脳へと伝達する末梢神経は、視神経です。
右眼を閉じると、右眼で見えている範囲が見えなくなります。ですが、右眼を開けていても、右眼の視神経が障害を受けていると、やはり右眼で見える範囲が見えなくなります。めずらしい例ですが、両眼を開いているのに真正面方向しか見えず、斜め後ろから近づいてくる(気配は別で)のが見えない人がいます。
網膜に映った視覚情報は、右眼で見える範囲のうち、外側(耳側)の情報は左脳に伝達され、正面方向(鼻側)の情報は見ている眼と同じ右脳へと伝達されています。左眼でも同様です。ですから、左眼の外側(耳側)の情報は右脳へと伝達されます。その情報は神経を通って伝達されますから、反対の脳へと向かう神経同士は交叉することになります。これが視、神経女又といわれるものです。この視神経交叉部のすぐ後ろに成長ホルモンを分泌する下垂体という内分泌腺があり、この下垂体に腫瘍ができた人が、この視神経交叉部に障害を受け、左右の眼から脳への伝達が途切れると、両眼とも外側(耳側)が見えなくなり、真正面しか見えない状態になってしまうのです。
耳の中に人間の体で一番小さな骨がある
人体の骨の数は206個、と書いてある本を見受けます。 200個という本もあります。 206個の理由は、耳の中にある耳小骨という骨が片耳3個あり、両方で6個あることから、200+6=206個と述べているのでしょう。この耳小骨は、耳の中でも中耳にあります。耳は鼓膜をはさんで、外側の外耳、鼓膜より中の中耳、そして本当に骨の中に埋まっている内耳の3部に分かれます。3個の骨には、それぞれ名前があり、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨といいます。
どこかで聞いたような名前がありますか? 漢字で書いてみましょう。槌骨、砧骨、鐙骨です。鐙骨の形を見てください。孔があいています。そうです、馬の鞍についている、足を入れる鐙と同じです。鐙のような形をしているのでアブミ(鐙)骨と名づけられたのです。
ツチ(槌)骨は、やはり形が釘などを打つ水づちや金づちに似ていることからつけられたのだそうです。このツチ骨は、鼓膜の内面に付着して、鼓膜の振動を受けています。音楽プレーヤーで骨伝導を採用したものがありますが、耳そのものも空気の振動を鼓膜で受け、膜の振動となり、その振動を骨伝導としてツチ骨が受けているのです。ツチ骨は後方でキヌタ骨に関節しています。キヌタ(砧)骨の砧は、もともとは「きぬいた(衣板)」が転じたもので、麻などで織った布を槌で打って柔らかくするのだそうですが、衣板は、その際に用いられた水または石の台のことをいいます。その台に似ていることからキヌタ骨と名づけられました。
ちなみに、東京世田谷に「砧」という地名があります。多摩川の近くで、昔、麻に似た植物の繊維で布を織っていたのですが、固い繊維を衣板で叩いて柔らかくしていたことが、その由来です。
大小だけではない、脳は6つに区分される
大脳は左右の半球に分かれていますが、その左右半球の間にはさまれて関脳があります。間脳には、交感神経や副交感神経と呼ばれる、自律押経の中枢が存在しています。
大脳と小脳、その中間に中脳があります。中脳には、眼に光を当てると瞳孔が縮小する、「反射」の中枢があります。
中脳の下には、背中に小脳を背負った位置で[橋]と呼ばれる部分があります。ここには、顔面の感覚を伝える「三叉神経」や、まぶたや唇、頬の皮膚などを動かす表情筋へ指令を与える「顔面神経」、耳の中で音を聞きとったり、平衡感覚に関係する内耳につながっている「内耳神経」、それらの発信や受け取りの核があります。
橋の下は脳の最下端で、脳の入れ物になっている頭の骨の下に丸く空いている大きな孔を通り過ぎ、背骨の内部に収まっている脊髄とつながりをもっている部分です。脳というよりは、まるで脊髄が上に伸びているような形でもあり、「延髄」といわれます。頚の根っこを飛びげりで打つプロレス技に、「延髄切り」があったように、そこを傷めると体に支障をきたします。延髄は、血液の循環に関係して、心臓や血管運動、呼吸運動などの制御をし、生命維持に重要な「生命中枢」といわれる中枢があります。
橋と延髄の上部、これらの背面の後頭部に位置するのが「小脳」です。大脳同様に、左右の半球からなります。小脳には、平衡機能、姿勢反射の総合的な調整、みずからの意思で動かす随意運動の調節など、運動に関係する統合を行っています。小脳は生命に不可欠な部分ではありませんが、傷害を負うと運動ができず、姿勢が保てず、平衡感覚が取れないなどの障害が現れてきます。
皮質は大脳だけではない
「大脳のてっぺん、前頭葉後方の大脳皮質が運動野である。その部分の脳梗塞で、左の腕のマヒが残ってしまった」などといわれることがありま「大脳皮質」に対して、「大脳髄質」という用語があります。皮質と髄質、この用語は大脳にかぎったことではありません。たとえば、副腎皮質ホルモンがブドウ糖の合成に関係しているとか、副腎髄質ホルモンであるアドレナリンは、心拍数を増加させるなどと、副腎にも皮質と髄質とがあります。
この皮質と髄質ですが、皮質とは、字のごとく「皮」、つまり表層の部分をいいます。髄質は、「髄」つまり中心部を意味します。大脳皮質とは大脳の表層部なのですが、その表層部が神経細胞の集まっている部分になっています。神経細胞が多数表層に集合できるように表層はしわを寄せた状態になっています。[脳のしわが多いほど……]といわれるゆえんですが、実際はしわという以上にデコボコが大きく、溝と溝、その間の出っぱりといった状態です。
その最大の溝は正中部で、右半球と左半球に分けられるほどの深い溝です。そのほか、左右半球それぞれの深い溝で前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉などの部位を分けています。大脳髄質は、脳細胞と脳細胞とを連絡する「神経線維」の集まった部分になっています。また、皮質と髄質は肉眼的な観察でも色合いが違っていて、髄質が白っぽいのに対して、皮質はやや濃い色、灰色に見えます。
それゆえ、表層の大脳皮質を「大脳の灰白質」、内部の大脳髄質を「大脳の白質」ともいいます。大脳表層(大脳皮質)の神経細胞の集まった灰白質が、人間の中央司令部となっていて、収集したさまざまな情報を解析し、指令を発信する場になっているのです。
脳は水に浮いている
クモ膜と軟膜の間に空間があり、液体が入っていると説明しました。硬い頭の骨に囲まれた中に軟らかい脳が、いちおう3枚の膜に包まれて入っていますが、硬い入れ物の中で軟らかいものが移動すれば、硬い壁に当たって変形し、壊れたりするでしょう。
お豆腐屋さんで豆腐は、水の中に浮いて買われていくのを待っています。硬い入れ物でも、水に浮かべておけば、軟らかいものは変形したり壊れたりしません。ということで、脳も脊髄も水に浮かんでいる状態になっています。そうです、クモ膜の下、軟膜との間の空間(クモ膜下腔といいます)に、「脳脊髄液」と呼ばれる水があり、それが脳と脊髄を取り巻いているのです。その脳脊髄液なる液体は、どこで生み出されて、クモ膜と軟膜の間に到達し、どこに排出されるのでしょうか?
脳の中にも空間があります。すの入った状態の空所ではありません。「脳室」という部屋があるのです。大きいものは4ヵ所あり、左右大脳半球内の部屋は「左右側脳室」といわれ、残りは「第三脳室」と「第四脳室」と呼ばれています。この脳室内に細い血管が群がり集まっているところがあります。「脈絡叢」と呼ばれていますが、その脈絡叢を作っている血管中の血液から、脳脊髄液が1日400~600m1作られます。第四脳室には、クモ膜下腔との間を連絡する孔が3ヵ所間いているので、脳と脊髄のまわりへと脳脊髄液は移動します。そうして、脳と脊髄を液体が取り巻くのです。
もちろん、どんどん新しいものが作られますから、古いものはどこかに排出されなければなりません。脳脊髄液は、また血液の中にもどります。頭のてっぺんの脳硬膜中には静脈が走っていて、その静脈の中にもどされるのです。
3枚の膜に包まれている脳や脊髄
「クモ膜下出血」という病名があります。脳の病気で、「脳卒中」というのもあります。脳卒中とは一般的な用語で、医学用語では「脳血管障害」といいます。その脳血管障害では、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血といわれるのが代表的です。
脳梗塞とは、脳の血管がつまったりして、その血管の先の脳組織が壊死(梗塞)した病気です。脳出血は、脳内の血管が破れ、出血して意識障害、運動マヒ、感覚障害などの症状が現れる病気です。クモ膜下出血は、脳のまわりを取り巻いているクモ膜の下で出血した場合で、脳の動脈がコブのようにふくれて破裂した出血がいちばん多いようです。
「クモ膜」という膜が、脳および脊髄を取り巻いていますが、取り巻いている膜はクモ膜だけではありません。3枚の膜に脳と脊髄はおおわれています。脳は頭の骨によって作られた頭蓋腔の中に、脊髄は背骨の中の空間であるう脊柱管内にと、硬い骨に守られて収まっています。それも3枚の膜に包まれて収まっているのです。
豆腐のようと称される軟らかな脳や脊髄を、直接ぴったりとラッピングしている膜を「軟膜」といいます。入れ物の骨にぴったりついていて、解剖してはがすとき、パリパリと音を立ててはがれる外側の硬い膜を「硬膜」といいます。クモ膜は、最内層の軟膜と最外層の硬膜にはさまれた2層目の膜です。クモの巣状で、軟膜との間には空間があり、液体を入れています。
硬膜は、脳の部分を分ける際の仕切りになっているところにもあります。大脳は左右の半球に分かれますが、左右の間は「大脳鎌」といって脳硬膜が、大脳と小脳の間には「小脳テスト」といってやはり脳硬膜が、その間に入り込んで仕切っています。
才槌(さいづち)頭は減っている
頭を真上から見てください。前後に長いですか? それとも、円い感じを受けますか? たぶん、円い感じを受ける頭が多いと思います。昔の人は、前頭・後頭が突き出て前後に長い頭が多く、才槌(木槌)の頭部のような形の頭ということで、「才槌」といっていました。いまはあまり見かけません。
頭の前後の径と左右の径とを測り、前後径で左右径を割って割合を算出したものを「頭長幅示数」といいます。この値が100になれば、真ん丸の頭ということになります。
人類学では、その示数が男性で75.9以下、女性で76.9以下を「長頭」、76.0~80.9(男性)・77.0~81.9(女性)を「中頭」、81.0~85.4(男性)・82.0~86.4(女性)を「短頭」とクラス分けしています。 才槌頭は前後に長く、つまり長頭に含まれます。頭長幅示数が100に近い丸い頭は短頭。そうそう、男性で85.5以上、女性で86.5以上を「過短頭」と分類することがありますが、現代人はこの過短頭の人が多くなっています。これは、頭が小さくなってきているわけではなく、左右径、頭の幅が広くなってきているために、丸に近づいているようです。
このように、時代変化として頭の幅は広くなってきているのですが、顔に関してはどうでしょう?
左右のほは骨の間の幅は、計測上は広くなっていますが、頭の幅ほどではなく、顎の幅は広くなっていないので、相対的にせまくなった感じを受けます。これらのことから、現代の若者の顔は顎の先のとがった細面に見え、フーテンの寅さんのようなえらの張った四角い顔は少なく、小顔が主流のような感さえあります。