人は体を使って生活し、日々生きています。しかし、使 っている自分の体について、どのくらい知っているでしょ うか? たとえば、食ぺたり飲んだりという行為は、生ま れてからずっと行ってきています。そのときに、口を閉じ て飲み込んでいることに、なんの不思議も感じていないの ではないでしょうか。
試しに、口を開いたまま飲み込んでみてください。うま く飲み込めますか? 飲み込めないでしょう。そうなので す。日を開いたままでは、うまく飲み込めないのです。飲 み込む際には、口を閉じなければならないのです。指摘さ れればそのことに気づきますよね。
では、なぜ口を開いたままではうまく飲み込めなく、飲 み込むときには、どうして口を閉じなければならないので しょうか? ここで疑問がわいてきますよね。なぜ、どう してという疑問です。日常、なにげなく行っている行為で すが、改めて指摘されると疑問がわいてきます。その疑問 に対する答えは、体のつくりと働きのなかにあるのです。
食ぺたものが熱かったり冷たいものであった場合、それ を飲み込むと、胸の中を下がっていく感覚が体験できます。 一方、あわてて飲み込むと、食べたものが気管に入ってむ せってしまい、鼻がむずむずして鼻をかんでみると、口か ら食ぺたご飯粒が出てきたなどという体験をしたこともあ るでしょう。私たちはふだん、口で食ぺ、鼻で息をしてい ますが、口でも息はできますし、鼻からも食ぺたものが出 てくることを考えてみると、食ぺる(摂食)ための構造と 息をする(呼吸)ための構造に、なにか関連があることに 気づくでしょう。
一歩進んで、自分の体のつくりを考えてみましょう。鼻 は口の上にあります。見ればすぐわかります。では、喉も との凹みを押してみてください。弾力ある感触が得られま す。強く押すと、息苦しさを感じます。押しすぎると咳込 みます。そうです、気管を皮膚の上から押しているからで す。逆に、食ぺ物はこの気管ではなく、胸の中つまり食道 を通っているのでした。息は鼻から気管へとのど(頚)を 通って運ばれます。食ぺ物は、口からのど(頚)を通って 食道へと運ばれます。どちらの通り道も頚を通り、胸の中 へとつながっています。のどもと、頚の下で気管はすぐ触 れました。前を走っているからです。食道はその後ろです。 鼻が上で、口が下にあって、それぞれがこのまま奥に進み、 下向きになったとき、上にある鼻の続きが後ろ側になり、 下にある口の続きが前になるのが普通ですよね。
実際の体では逆になっています。気管が前で、食道が後 ろを走っています。この矛盾解決の糸口は、どちらにとっ ても途中である、頚の上部にある「のど」なのです。実は、 「のど」には2つの漢字、2つの意味があります。「咽」と「喉」 です。咽は、口の奥で「のどちんこ」の先であり、鼻の奥 でもあります。喉は、「のどぼとけ」の内部で、その続き が気管です。空気は鼻から咽を通り、喉そして気管へと運 ばれます。食ぺ物は口から咽を通り、食道へと運ばれます、 咽は空気も食ぺ物も通り、その先で分かれるのです。この 構造が、「口に入れたものを飲み込むとき、口を閉じて行 っている。それはなぜか、どうしてか?」の疑問への答え を引き出す鍵となります。
ふだんなにげなく当然のように、いや、当然と思うこと もなく行っていることを、改めて考えてみてください。そ こになぜだろうという疑問がわいてきませんか? その なぜを、それはどうしてだろうと、理由を求めてみてくだ さい。毎日使っている自分の体です。自分がもっている体 です。その体のつくりと働きを考え、理解してください。 ここでは、ふだん使っている自分の体を振り返り、なぜ だろう? どうしてだろう? という疑問を理解するため に、人の体のつくりと働きを説明してみたいと思います。 また、考え違いをしていると思われることを指摘し、それ についての説明や、あまり知られていない不思議な体の名 称や働きも紹介してみたいと思います。
人の体って緻密で繊細、それでいて、統合された一個体 として機能しています。なんて複雑、不思議なんだろうと 思いつつ、自分の体に愛おしさを感じていただけたらと思 っています。
ものをよくかむ人のえらは張っている
耳から頬骨の間で、下顎の角のすぐ上あたり、そこを触れながらかんでみてください。硬くなったでしょう? 次いで、こめかみを押さえてかんでみてください。やはり硬くなったでしょう。どちらも、ものをかむときの咀嚼運動で使われる筋肉なので、「咀嚼筋」といわれるグループに入ります。下顎の角付近の筋は、そのものズバリ「咬筋」といいます。もう1つの、こめかみおよびその上は側頭部なので、「側頭筋」といいます。
生きていくために、体はいろいろと働き、さまざまな動きをします。心臓は血液を体中に運ぶポンプの役割をしています。栄養をとるため、口から食道、胃、腸へと食ぺたものを運びます。これらの運搬作用も筋肉が行います。心臓の壁も心筋といわれる筋肉、食道も胃も腸の壁も内臓筋といわれる筋肉でできています。歩く、もつ、投げるなどの運動は、骨がつながっている関節を動かして行われ、そのための筋肉を「骨格筋」といいます。