コレステロールの基礎知識
コレステロールの歴史
「コレステロール」という言葉は、ギリシヤ語の「chole(コレ)」と、「sterol(ステロール)」の複合語です。「chole」は胆汁を、「sterol」は固体(物質の基となる複雑な化学構造)を意味しています。
コレステロールが発見されたのは、19世紀前半のことですが、人の体の中には、もちろん太古から存在しており、人類の歴史の9割を占める飢餓の時代には、コレステロールが高い(=栄養を体に蓄えやすい)家系のほうが、長寿の人が多かったと考えられています。
しかし、現代のような飽食の時代では、生きるために必要な脂質が体にたまリ過ぎ、それが健康を脅かす一要因になっています。
生活習慣病に勝つ健康術
食生活やライフスタイルの改善、適度な運動は、高脂血症などの生活習慣病の治療に有効です。
健康は自分で守り、作るもの。日々の小さな努力が大きな実りに
高脂血症の治療の基本は、非薬物療法、つまり生活習慣の改善です。
コレステロール値や中性脂肪値が高い場合、目標値まで下げるには、食生活の改善、適正体重の維持、適度な運動、禁煙などを実行することが、とても重要です。
なかでも、かなめとなるのが食生活の改善です。1日の摂取エネルギーが適正か、アルコールを飲み過ぎていないか、コレステロールや動物性脂肪の多い食品を食べ過ぎていないかをチェックし、改善する点があれば、できることから実行してみましょう。
また、適正体重を維持するためには運動療法も大切です。適度な運動を行うことによって、基礎代謝量が上がって太りにくい体になると同時に、LDLコレステワールを減らし、HDLコレステロールを増やすことができます。さらに、禁煙、ストレスの解消、規則正しい生活、上質な睡眠をとることなども大切です。
これらのことを実行するだけで、しだいにコレステロール値や中性脂肪値が下がってくるでしょう。
薬物療法を行う場合も、 自己療養は根気よく続けよう
高脂血症がかなり重症であったり、家族性高コレステロール血症で薬物療法を行う場合も、薬に頼って生活習慣の改善をおろそかにしては、思うような治療効果は現れません。薬物療法と併せて、食事療法や運動療法などを行うことで、コレステロールや中性脂肪の合成機能や代謝機能がうまく働くようになるのです。
このような生活習慣の改善は、高血圧や糖尿病など動脈硬化のほかの危険因子を予防・改善するためにも、たいへん有効です。また、疲れにくい体を作り、ストレスに強い心と体を作るのにも、役立ちます。
あなたの健康を守るのは、あなた自身です。ぜひ、今日から実行してみてください。
中高年男性とコレステロール
男性は動脈硬化性疾患や肝臓病のリスクが高いので、日頃からコレステロール値に注意しましょう。
男性の虚血性心疾患の発病率は女性の2~3倍にものぼる
男性は30歳を超えたころから、コレステロール値や中性脂肋値が少しずつ上昇する傾向があります。しかし、閉経後の女性のように、加齢による急激なコレステロール値の変化はほとんど見られません。
ただし、男性は女性に比べて、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症する率が2~3倍高いので、年々コレステロール値の上昇が進んでいる人は、コレステロール値を下げる生活習慣を早めに身につけておきましょう。
いちばん大切なのは、肥満を予防し、過食とお酒の飲み過ぎを避け、きっぱりと禁煙することです。
動脈硬化は足先にも及ぶ。閉塞性動脈硬化症に注意
加えて、50歳以上の男性に多い病気に閉塞性動脈硬化症があります。
これは、動脈硬化の進行によって、手足の動脈が狭くなって血液が流れにくくなったり、動脈がつまったりする病気です。手足がしびれる、手足が冷たい、一定の距離を歩くと筋肉痛で歩けなくなり、数分休むと回復する(間敵性破行)などの症状が見られ、悪化すると、足が痛くて眠れないといった安静時疼痛や、足の指の壊死などが起こります。
閉塞性動脈硬化症の症状があると、全身のほかの部位でも動脈硬化が進んでいる可能性が高く、心筋梗塞や脳梗塞などを合併するおそれがあります。
発病の主原因として喫煙があり、それにLDLコレステロールや中性脂肪の増加、低HDLコレステロール血症が関係するので、高脂血症を改善することと、高血圧などの危険因子にも注意することが必要です。
さらに、高脂血症と糖尿病を合併している場合、コレステロール値がそれほど高くなくても動脈硬化が進むので気をつけましょう。
女性とコレステロールの関係
女性は閉経後、コレステロール値が高くなります。しかし、あまり神経質に考えないでよいようです。
女性ホルモンのエストロゲンが悪玉コレステロールを減らす
女性の狭心症や心筋梗塞の発症率は、男性の半分以下ほどの割合です。
なぜ、女性に虚血性心疾患が少ないかというと、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンが、動脈硬化の進行を抑制する働きをしているからです。
卵巣から分泌されるエストロゲンは、肝臓に働きかけてLDLコレステワールの受容体を増やし、血中のLDLコレステロールの増加を抑えるとともに、善玉のHDLコレステロールの合成を促します。
エストロゲンのこの働きのおかげで、女性は月経がある10~40代の間は、動脈硬化の進行が抑えられているのです。
間経後はコレステロールが高めに。ほかの危険因子がある場合は注意
ところが、女性は閉経前からエストロゲンの分泌がしだいに減っていき、平均51歳の閉経後は分泌量が激減します。その結果、50代以降になるとコレステロール値が急に高くなる人が多くなります。
コレステロール値が220mg/dl以上となり、高脂血症の診断基準にあてはまる人も増加しますが、閉経後すぐの女性の場合、その時点までは動脈硬化はそれほど進行していません。
したがって、個人差もありますが、240mg/dlくらいまでの数値であって、ほかの危険因子がなければ、さはど神経質になることはありません。
ただし、閉経後も年々コレステロール値が上がり続けていたり、高血圧や高血糖になっていたり、長年の喫煙習慣がある場合は、動脈硬化が急に進行してくる可能性が高いので、早期に医師の診断を受けましょう。とくに、高脂血症に糖尿病が合併すると、男性よりリスクが高くなります。
高脂血症の治療の現在
治療の第一の目的は動脈硬化の予防。糖尿病などほかの危険因子があれば、その治療も並行して行います。
高脂血症以外のリスクがあれば治療目標値がきびしくなる
コレステロール値や中性脂肪値が高い場合、動脈硬化の進行を抑えて狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの発病を防ぐために、自己療養や治療が必要です。
ただし、動脈硬化や、動脈硬化が原因で起きる心疾患を引き起こす要因は、加齢、高血圧、糖尿病、喫煙など高脂血症以外にもたくさんあります。とくに、高血圧は高脂血症と並ぶ大きな危険因子で、高脂血症、高血圧、喫煙が動脈硬化の三大危険因子とされています。
したがって、治療にあたっては高脂血症以外の要因も考慮しなければなりません。たとえ、コレステワール値が220mg/dl未満でも、高脂血症以外の危険因子を3つ以上持っている場合や、糖尿病や脳梗塞を合併する場合、過去に冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)を患ったことがある場合は、治療目標とする数値が低くなります。
生活習慣を見直す自己療養が基本。薬物療法は慎重に行いたい
高脂血症の治療の基本は、食生活やその他の生活習慣の改善、運動療法を行う非薬物療法(自己療養)です。
高脂血症が軽度~中等度で合併症などがない場合は、非薬物療法を3ヵ月程度行って、目標値より高めでも数値が下がってきている場合は、薬を使わないで、気長に自己療養を続けます。
しかし、3~6ヵ月続けても治療効果が出ない場合は、薬を使うかどうか検討します。また、糖尿病などを併発している場合は、その合併症の治療も必要です。
一方、過去に冠動脈疾患を発病したことがある人や、家族性高コレステロール血症の人などは、早い段階から薬物療法が行われます。その場合も、非薬物療法が並行して行われます。
コレステロール値の検査と診断基準
血液検査を定期的に行えば、大きな病気の予防となるのに加え、加齢による健康状態も把握できます。
数値だけで一喜一憂しないで総合的な危険因子から判断を
血液中のコレステロールや中性脂肪の値が、基準値より高い場合、高脂血症と診断されます。しかし、自覚症状がないため、健康診断などで血液検査を受けて初めて、自分のコレステロール値や中性脂肪値が高いことを知るケースがほとんどです。
血液検査で調べられるのは、総コレステロール値、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、中性脂肪値などです。総コレステロール値とは、LDLコレステロールやHDLコレステロールなど血液中に含まれるコレステロールを合計した総量のことで、「総」をつけずに「コレステロール値」と言うこともあります。
血液検査でコレステロール他が高いという結果が出ても、高血糖や高血圧と違い、コレステロール自体が単独で病気を引き起こすことはあまりありません。とくに動脈硬化の進行程度は、喫煙、家族の病歴、食生活などその他の危険因子から総合的に判断する必要があります。また、コレステロール値の検査は、「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓や腎臓の機能をみる意味合いも強いのです。
基準値を超えた場合は検査を追加。全身の状態を調べて治療が始まる
コレステロール値の高い低いは、個人の体質によっても、それなりの差があります。
血液検査で基準値外であった場合、すでに動脈硬化が進行しているかどうかや、高血圧や糖尿病、肥満など合併症の有無を調べることが重要です。
そのため、医師の指示のもと、血圧測定、手と足の血圧差、心電図検査、胸部X線検査、眼底検査、血清リポたんぱく検査、頚動脈・心臓・腹部の超音波検査などの再検査を行います。それらの検査結果や現在の症状、食生活や喫煙などの生活習慣、今までの病歴、家族の病歴などを総合的に診断し、今後の治療方針が決められます。
コレステロールと中性脂肪の関係
中性脂肪が増え過ぎると、善玉コレステロールが減少し、悪玉コレステロールが増加します。
中性脂肪の増加によっても動脈硬化は進行する
コレステロールとともに気をつけたいのが中性脂肪です。中性脂肪も血清脂質のひとっで、食品から吸収されるものと、肝臓や小腸など体内で合成されるものがあり、ともに体を動かすエネルギー源となります。
中性脂肪は、飢餓状態に備えて皮膚の下や、内臓周辺の脂肪細胞に蓄えられます。皮膚の下に蓄えられたものを皮下脂肪、内臓のまわりに蓄えられたものを内臓脂肪と言います。これらの中性脂肪は、必要なときに分解され、全身に運ばれてエネルギーとして使われます。
また、皮下脂肪には寒いときに体を保温する働きが、内臓脂肪には内臓を外部の衝撃から守る働きがあります。
このように、体にとって重要な働きをする中性脂肪ですが、増え過ぎると、LDLコレステロールとHDLコレステロールのバランス関係に悪影響を与えます。
血液中の中性脂肪の基準値は30~150mg/dl未満ですが、中性脂肪値がそれをオーバーすると、善玉のHDLコレステロールが減少し、悪玉のLDLコレステロールが増加しやすくなります。その結果、動脈硬化が進行してしまうのです。
急性師炎が起こる危険性も。肥満や糖尿病などにも要注意
また、お酒の飲み過ぎや廿い物のとり過ぎによって、肝臓で中性脂肪が合成される量が過剰になると、血液中のリポたんぱくVLDLが増加するとともに、肝臓に中性脂肪がたまって脂肪肝になります。
一方、小腸で中性脂肪が過剰に作られた場合は、食後に中性脂肪値が急激に上がって、急性豚炎を発病する確率が高くなります。さらに、中性脂肪値が高い状態が続くようになると、肥満や糖尿病なども招きやすくなるので注意が必要です。
高コレステロールがもたらす病気
コレステロール値が高いと、高脂血症と診断されます。動脈硬化のリスクを知らせる黄色信号です。
高脂血症は”沈黙の殺し屋”放置すると命の危険も
コレステロール値の管理が大切なのは、前述のように、動脈硬化によって起こる心筋梗塞や脳梗塞などの予防のためです。
しかし、コレステロール値が高くなっても、自覚症状は出ないので、動脈硬化のリスクを把握しにくいところがあります。
そこで、コレステロール値が高いことを認識し、早めの療養を促す意味を持つのが、コレステロールなどの血清脂質の量を診断基準とする病気「高脂血症」です。
高脂血症は、糖尿病や高血圧などと同様に「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれており、自覚症状がないまま、生命を奪う病気にまで進行しやすい生活習慣病のひとつです。
現在のところ、糖尿病や高血圧に比べると、危機感を抱かれにくい病気ですが、動脈硬化の話からもわかるように、進行すると命にもかかわります。放置せずに、早めに自己療養を始めましょう。
高脂血症の種類
※【】内は診断基準。
血清脂質の高さの違いによって、4タイプに大別されます。
高コレステロール血症
- 【総コレステロール220mg/dl以上】
- コレステロールがとくに多いタイプ。
- 日本で急増している。
高LDLコレステロール血症
- 【LDLコレステロール140mg/dl以上】
- LDLコレステロールがとくに多いタイプ。
- 狭心症や心筋梗塞につながりやすい。
低HDLコレステロール血症
- 【HDLコレステロール40mg/dl未満】
- HDLコレステロールが少ないタイプ。
- 動脈硬化の進行が加速化しやすい。
高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)
- 【中性脂肪150mg/dl以上】
- 中性脂肪がとくに多いタイプ。
- 急性豚炎、脂肪肝を起こしやすい。
家族性高コレステロール血症
食事などの生活習慣に問題がなく、ほかの病気の合併症もないのに、遺伝的な体質が原因でコレステロール値が高くなる病気です。
細胞がLDLコレステロールを受け入れる機能(LDL受容体)が弱いために、子どものころから、コレステロール値が高くなります。
普通の人より動脈硬化が進行するのが早く、心筋梗塞による死亡率は一般の人の約10倍と言われます。
食事療法を中心とした治療が行われ、運動療法や薬物療法も併用されます。
酸化LDLが危険度を増す!悪玉のLDLコレステロールを凶暴化させるのが"酸化"動脈硬化が一層進みます。
活性酸素が動脈硬化の元凶。白血球が酸化LDLを食べて巨大化
リポたんぱくのLDLが血液中で増加すると、血液の濃度が増してトロトロ状態になります。血流が悪くなり、動脈硬化が進行しますが、この過程でいちばん問題になるのは、LDLが活性酸素(体を酸化させる働きが強い酸素)によって酸化されることです。
トロトロ血液の中で、数が増えたLDLは停滞しやすくなり、行き場を失ったLDLは動脈の血管壁の中に入り込みます。血管壁は、血液中よりも活性酸素が発生しやすい場所であることから、血管壁に入ったLDLは、ほぽ100%酸化LDLに変えられます。
酸化したLDLは異物とみなされ、体を守るための免疫機能が働き出し、白血球の一種のマクロファージ(貪食細胞)が血管壁に入り、酸化したコレステロールを食べて処理しようと試みます。
この状態が続くと、マクロファージは酸化したコレステロールを食べ過ぎた状態となり、泡沫細胞(泡のような形状の細胞)に変わります。これらは血管の内皮細胞の内側にたまっていき、それによって動脈壁が押し上げられ、血管内部が狭くなります。この状態を「アテローム(粥状)動脈硬化」と言い、さらに進行すると、最後には血管壁が破裂します。血管壁が破れると、すぐに血栓ができて血管をふさいでしまい、これによって心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされます。
活性酸素の発生源とその防止
活性酸素を発生させる原因になるのは、たばこ、ストレス、排気ガス、食品添加物、酸化した調理油、紫外線、ダイオキシン、消毒に使う塩素化合物などです。また、体の中でエネルギーを作る際、脂肪やブドウ糖を燃やすときにも活性酸素ができます。
体内の活性酸素の量を減らすには、禁煙、汚れた空気がある場所にいる時間を減らす、ストレスをためない、添加物の少ない食品を選ぶ、抗酸化力の強い食品をとる、などが有効です。本書の2章から5章で、具体的な方法をたくさん紹介しているので、ぜひ試してみてください。
コレステロールの「悪玉」と「善玉」ってなに?
よく耳にする「悪玉」と「善玉」のコレステロール。両者には、どんな差があるのでしようか?
「悪玉」も「善玉」も本来は同じリポたんぱく
よく「悪玉コレステロール」と「善玉コレステロール」という言葉を耳にしますが、これはそれぞれ「LDLコレステロール」と「HDLコレステロール」を指します。
しかし、前ページで見たように、この2つは、別々のものではなく、同じコレステロールでありながら、コレステロールがのっているリポたんぱくの種類が異なるだけです。
よって、本来は「悪玉」「善玉」と区別すべきものではないのですが、あえてこの呼び名があるのは、LDLコレステロールとHDLコレステロールの関係が、動脈硬化の進行に深く関わっているからです。
そのメカニズムを説明しましょう。

